何週、時計の針が回るのを見ただろう。


やっと終礼のチャイムが鳴って


あたしは声をかけてくる友人に言う。





「ごめんね、今日部活サボる」





疲れちゃった、と付け加えて


教科書をぎっしりと詰めた鞄を手に取り


足早に教室を出た。





彼と過ごした


この教室に居るのが辛かった


この教室の雰囲気が嫌だった





彼からの視線が


とてつもなく痛かった





ドカッ!!





「痛ぇぞおおおい!!!」





考え事をしながら道を歩くものではないと


思い知らされたみたいに


あたしはガラの悪そうな長身長髪の男に


ぶつかってしまった。


相手の怒りを買わないように


必死に頭を下げる。





「ごめんなさいっ・・あたしの不注意で」





そおっと目だけ動かして


怖そうな男の人の面持ちを窺う・・





「あれ?・・・KY.スクアーロ?」





どこかで聞いたことある声だと思ったら。


世界は広いようで、狭い。





「ああ!!!」





何故に呼び捨てっ??!


しかもこのフレンドリーオーラは何だろう。


何か変なものでも食べたのかしら←


突っ込むところを考えていると





「ぼさっとして、何考えてたんだ?男か?」





古臭く小指を立ててみせるスクアーロ。


”男”を表すのは親指を立てるんじゃあなかったっけ


とゆう思考はさておき、彼の笑顔が火に油をそそぐ。





「図星だけど・・


篠田悠磨なんて彼氏じゃないっ!!」





心で叫んだつもりだったのに


声に出ていたようで


道を歩く主婦や小学生にまで注目されてしまった。





「可哀相にな、フラれたのか!!」





変質者の声はデカい。


大きいじゃなくて、デカい。





「あたしがフったの!!」





小声で、それでも眉間にしわよせて


あたしは怒った顔をしていたはずなのに


スクアーロは動じず。


「そうか」とだけ零して


あたしに背を向けた。





「・・昔の男のこと、引きずってんだな」





今まで、誰にかけられた言葉よりも


あたしの胸に刺さった。





引きずってない


なんて言ったら嘘になるのかな





あたしからフったのに


痣になるほど殴られたのに





今でも鮮明に思い出すことの出来る日々が


頭の中でメリーゴーランドみたいに回ってて





「それと・・俺の名前は、KYじゃなくてスペルビだ」





KYスクアーロの声が遠くに聞こえた。


あたしは何かを掴みたくて、掴めなくて


ただただ手を前へ伸ばした。





やっと何かを掴んだ。





その時には


あたしの記憶は途絶えていた。











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